嘘つきキャンディー
好きです、先生
ガラステーブルを挟んだ向こう側、私とカメ男と向かい合って座る矢野先生を前に、私は完全に萎縮していた。
所変わって、現在は圭人さんの、いや、圭人さんと矢野先生宅のリビングに通してもらい、出されたアイスコーヒーの氷が溶けていくのを、ただただ見つめている状況。
誰か私を殺して…。
見なくても分かる、先生のメガネ越しの射るような視線に、私は兎に角目を合わせないようコーヒーの中の氷に集中した。
先程まで別人のように饒舌だったカメ男も、先生の登場と共に、すっかり元のコミュ障が再発してしまっている。
せめてカメ男と圭人さんがアニメの話とかで騒いでくれていた方が、まだ空気も良かったんじゃないだろうか。
先生の横で何故か一人楽しそうにニヤニヤしている圭人さんに、私は本日二度目の非常に強い殺意を覚えた。
沈黙の中、時計の秒針の音だけがやけに響く。
カランと涼しげな音を立てて氷が溶けると、それと同時に先生が口を開いた。
「そんなに緊張しないでください。
そうだ。清水さん達はもう昼食は済みましたか?」
「い…、いいえ。」
「そうですか。では、何か買いに行きましょうか。
生憎今冷蔵庫の中に何も無くて。」
「え、いや…。あの、私達もう帰ります。ね、カメ男。」
助けを求めるように隣を見ると、黙って俯いていたカメ男がその丸めた肩をビクッと震わせる。
あ、だめだコレ…。
死んでる。(精神的に)
「と、とにかく、お邪魔しました。
コーヒー、ごちそうさまです。」
言いながら軽く一礼をすると、私はカメ男の腕を引き、支えるようにして立ち上がった。