嘘つきキャンディー
「では、着替えてくるので待っていてください。」
「ハイ。」
ここまできたら、もう先生の言いなりになってしまう。
何故かこの人には、そうさせる空気がある。
Tシャツとメガネはそのままに、濃いブルーのカーディガンと黒のスキニーパンツに着替えた先生と私は、渋々アパートを出た。
時刻は13時を回る少し前。
調度昼食時だというのに、私にお腹が空くような余裕はなかった。
隣を歩く先生は、カメ男が居る時はニコニコしていたくせに、今は愛想なんて全くない。
無表情。いや、寧ろ少しイラついているようにも見える。
「おい。」
「ハ、ハイ…ッ!」
突然口を開いた先生に驚きつつも、私は勢いよく返事をした。
先生はそんな私を、怪訝そうな表情で見ている。
「近くのコンビニまでだから、もう歩きでいいな。」
「あ、はい…。」
それ以来、お互いの間に再び流れる沈黙。
話があると言ったわりには、先生から切り出す様子はない。
こんな状況にも、私の心臓だけは煩く鼓動している。
結局、この沈黙に最初に耐えかねたのは私だった。
「……先生。」
「ん?」
低く掠れた、短い返事。
そんなものにすら色気を感じて、胸の奥がきゅっとする。
自分でも気づかない内に、取り返しのつかない所まで来てしまっているのかもしれない。