嘘つきキャンディー
「あの、怒ってますよね。」
「あ?だから怒ってねぇって。」
「でも、突然押しかけたみたいで…、」
「どうせ何も知らないで、圭人に連れてこられたんだろ。
アイツのやること、基本意味分かんねぇから。」
そう言うと、先生は面倒臭そうに頭をかいた。
あ、このクセ。
久々に見た。
陽に透ける赤茶の髪が、柔らかく光る。
綺麗…
見すぎたのか、先生の視線が私の方をゆっくりと捉えた。
「……何。」
「あっ、いや…。
け、圭人さん、どうしてあの部屋に先生と一緒に住んでるのかなぁと。」
「あぁ。」
苦しいけれど、何とか誤魔化せたようだ。
見とれていた、なんて、口が避けても言えない。
けれど、圭人さんと先生が同じ部屋に住んでいるのが不思議なのは本当だ。
圭人さんは兎も角、先生が誰かと一緒に住めるほど協調性があるとは思えない。
というか、最初からそんなことしそうにない。
「元々あそこは基本シェア用で、たまに俺みたいなのが一人で住んでんだよ。
あそこの立地が一番俺の都合に良かったし、何より家賃安いし。」
「へぇ…。あのお部屋、部屋数も多そうだし綺麗なのに安いんですね。」
「俺の住んでる部屋だけな。ワケありらしいから。」
「ワケあり?!」
『ずっと前に住んでたヤツらが揉めて、口論の末…ってことらしい』なんて、先生は何でもないことのようにさらりと言った。