愛を囁いてもいいですか。



――家の前。


「今日はありがとうございました。試合に付き合っていただいた上に、ごはんも奢ってもらって…。」

『いや、いいんだ。僕がそうしたかっただけだから。』


やわらかい笑顔でそう言った香坂さんに、ちょっとドキッとしてしまう。


「じゃぁ、私はこれで――」

『待って。』


車を車庫に入れ、車のキーを受け取った私は、家に入ろうと背を向けると、掴まれた手首。


「…香坂さん?」

『准。』

「え?」


じゅん…?


『僕のことは准でいいから。』

「ぇ、ぁ…はい。」


そう言われて、そういえば香坂さんの下の名前が准だったことを思い出す。


「准さん…どうかしました?」


いまだ掴まれている手首を見て、まだ彼が何か言おうとしているのだと察した。


< 29 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop