花と蜜蜂


「だーかーらー!男ってのはどうしてそうなのぉ?あたしはこんなに尽くしてきたのに。記念日にフルとか鬼なの?悪魔なの?あたしのこの10年を返せってーの。すいませーん、サウザくださぁい。ゴールドで!」

「え、まだ飲むのか?」

「飲むのかって、誘ったのはそっちでしょ!」

「あー……はいはい」


ビシッと指差した先の駆は、苦笑してショートグラスを傾けた。
その仕草が大人びていて、伸ばしていた手が力なく落ちた。


あたし何してんだろ。
元彼に、なに愚痴ってんの。

これじゃ、もっとみっともない女だって思われるのに。
久しぶりに会えたなら、あの頃の記憶のまま、綺麗なまま別れるべきだった。

こんなくだらない愚痴に、ずっと耳を傾けてくれる駆。
聞き入れてくれることが、心地よかった。

否定も肯定もない。

ただ、あたしの事を見て、聞いて、頷いてくれる駆。


あの日、あたしがあんな事聞かなかったら……。
あたし達の今は、どうなってたの?


うんん、今更だよ。

13年も昔の話。
終わった恋。
あたし達は、あの日、あの時。

あたしの言葉によって終止符を打ったんだから。




運ばれてきたグラスを、唇に押し当てて小さくため息を零す。




「ほんと、恋なんてしなきゃよかった……」



すべてを否定しなきゃ、やりきれない。
今のあたしには、まだ別れを受け入れて前に進む力が湧いてこないんだから。


ポタリとダークブラウンのテーブルに雫が落ちる。

汗をかいたグラスのそれを合わさって、溶ける。

あたしは、初めて涙を流していた。




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