花と蜜蜂
怖い……駆が怖い……。
シャワーを浴びて、頭の中がすっきりした。
やっぱり帰らなくちゃ。
タクシー使えば、なんとか……。
お財布確認しなくちゃ。
そっと部屋を覗き込むと、ソファに腰を落とした駆があたしに気付いた。
すっぴん……サトシにも見せるのに半年かかったのに。
あの駆に、見せることになるなんて。
うう……20代ならともかく。
ちょっと抵抗ある。
首にかけたタオルで顔を半分隠しながら、そそくさと駆の前を通り過ぎた。
目指す先は自分の鞄。
財布を取り出すと、中身を見て愕然とした。
3千円……。
無理だ……。
ホテル代と合わせて、全然足りない。
茫然と立ち尽くしていると、駆があたしを呼んだ。
「篠田は、何飲む?」
「え? あ、あたしは……」
「水の方がいいか。ホラ」
「あっ、ありがとう」
投げてよこされたそれを慌てて受け取ると、ヒンヤリと冷たい感触が火照った体に心地よかった。
お酒、勧めると思った。
駆とは離れて、ベッドに座った。
そんなあたしの事は気にも留めず、手元のリモコンをいじっている。
とその時。
パチッとついた液晶の大画面の先で、濃厚な濡れ場が映し出された。
しかも、大音量と共に。
ぎゃ!
や、やめてよっ!
慌てて視線を逸らしたものの、まったく動じていない駆はパチ、パチとチャンネルを変える。
ああ、もう、どうしてこういうホテルってエッチなビデオばっかなのかな。
あたしだって、サトシと付き合ってる時に、何度か観た事はある。
でも、今一緒にいるのは、駆なのだ。