花と蜜蜂
と、その時テーブルのはがきの存在に気付いた。
【篠田花(しのだはな)様】と印刷された文字の下に【東陽高校3年2組同窓会】と続いていた。
高校を卒業して、そのまま上京したあたしは、地元に帰るのは、お盆とお正月くらいで。
実家とも疎遠になっていた。
でも最近、よく母から電話がかかってきて。
その口から発せられるのは、『結婚』の二文字だったのだ。
わかってる……。
あたしももう30。
しかも、付き合って長い彼氏。
そろそろケジメつけなくちゃって、そう思ってる。
懐かしいなぁ。
思い出すのは、初めて付き合った彼氏の存在。
たった1ヶ月の付き合いだったけど、彼はあたしの中で今でも特別な存在だ。
時々耳に入る噂話で、もう結婚したとかどうとか……。
彼も来るのかな……。
―――カランコロン
涼しげな音を立てて、勢いよくお店の扉が開いた。
「ちょっと、花!聞いたよぉ、同窓会欠席するんだって?」
重たそうな鞄を椅子に下ろしながら、そう言ったのは高校の時の友人で同じく上京組の真由香だ。
すかさず現れた店員に、「マティーニ」と告げると、真由香は短くカットされた髪を耳にかけながらあたしを覗き込んだ。