花と蜜蜂

寝よう。
先に寝てしまえば。


モソモソと布団に潜り込む。
ホテル特有のパリッとしたシーツの冷たい肌触りが、露わになった太腿に伝わった。


ギュッと目を閉じたその時、ギシッとスプリングの軋む音と共に、耳元で声がした。



「寝るの?」

「え?あ、うん。酔っぱらっちゃったし。明日は始発で帰るから」


目を開けてさらにギョッとした。
駆があたしの身体を囲うように、手をついて、見下ろしていたから。


さらに布団に沈み込んで、モゴモゴと答えた。


「そっか」


それだけ聞こえ、駆の気配が消えた。
でも、すぐに部屋の照明がギリギリまで落とされて、同じ布団に駆が入ったのが分かった。

べ、ベッドひとつしかないんだし。
一緒に寝るの、当たり前だよね。

あたしの意志とは別に、勝手に加速する鼓動。


「おやすみ」


視界が暗闇になれずにいると、すぐそばでかすれた声がした。
きっとあくびしながら言ったんだ。

ほんとはずっと眠たかったのかも。
あたしが酔っぱらっちゃったから、駆はしかたなくここでこうしてくれてるんだ。



「……おやすみ、なさい」



『おやすみ』って、ほんとに久しぶりに言ってもらった。
こうして誰かと一緒に寝るっていう事は、すごく安心出来るんだ。

でも、この言葉は、あたしのモノじゃない。


かすかな吐息が聞こえる。
その気配に胸を張り裂けそうになった。


< 20 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop