花と蜜蜂
寝よう。
先に寝てしまえば。
モソモソと布団に潜り込む。
ホテル特有のパリッとしたシーツの冷たい肌触りが、露わになった太腿に伝わった。
ギュッと目を閉じたその時、ギシッとスプリングの軋む音と共に、耳元で声がした。
「寝るの?」
「え?あ、うん。酔っぱらっちゃったし。明日は始発で帰るから」
目を開けてさらにギョッとした。
駆があたしの身体を囲うように、手をついて、見下ろしていたから。
さらに布団に沈み込んで、モゴモゴと答えた。
「そっか」
それだけ聞こえ、駆の気配が消えた。
でも、すぐに部屋の照明がギリギリまで落とされて、同じ布団に駆が入ったのが分かった。
べ、ベッドひとつしかないんだし。
一緒に寝るの、当たり前だよね。
あたしの意志とは別に、勝手に加速する鼓動。
「おやすみ」
視界が暗闇になれずにいると、すぐそばでかすれた声がした。
きっとあくびしながら言ったんだ。
ほんとはずっと眠たかったのかも。
あたしが酔っぱらっちゃったから、駆はしかたなくここでこうしてくれてるんだ。
「……おやすみ、なさい」
『おやすみ』って、ほんとに久しぶりに言ってもらった。
こうして誰かと一緒に寝るっていう事は、すごく安心出来るんだ。
でも、この言葉は、あたしのモノじゃない。
かすかな吐息が聞こえる。
その気配に胸を張り裂けそうになった。