花と蜜蜂
涙が出るのは、きっと彼のその言葉が身に染みたからで。
一緒に寝る誰かがいてくれる事が、どれだけ尊いものかって事に気付いてしまったからで。
決して。
間違っても、駆に触れられないからじゃない。
その腕が、あたしを抱き寄せない歯がゆさからじゃない。
戻れないんだ。
あの頃には。
時が流れ過ぎてしまった。
戻れない……。
「っ……」
明日、夜が明けたらすべてなかった事にするんだ。
あたしは駆に再開しなかったし、こうして夜を共にすることもなかった。
そしてまた、あの綺麗な思い出の彼に戻ってもらう。
それだけ。
キュッと体を小さくした、その時だった。
かすかに聞こえた。
「……篠田」
あたしを呼ぶ、駆の声。