花と蜜蜂


答えるより早く、重ねられた唇。

まるでついばむような甘くて、くすぐったいキス。触れただけなのに、身体の奥がじわじわと潤っていくのがわかる。

あたし、駆とキスしてるの……?


チュッとリップ音と立ててそっと唇を離した駆は、あたしに自分の体重を重ねた。


……あ。


「ま、待って、あの」

「ん?」


ズイと彼の胸を押しやる。
動きを止めた駆が、不思議そうにその瞳を瞬かせた。


あたしが受け入れる前提なの?

まだ何も言ってないのに。


「だけど、駆は……その、結婚してるんでしょ?」

「え?」

「ダメって言ってるのに。……いくらあたしが寂しい女だからってね」

「いや、待って。結婚とか何?」

「へ?」


あたしに覆いかぶさったまま、駆はその表情を曇らせる。

真っ直ぐに射抜くような視線に耐え切れず、慌てて顔を背けると、グイッと頬を掴まれた。


「うっ」

「そーいや、さっきも言ってたな。奥さんがどうとか」

「イダイ……離してっ……だ、だって駆は結婚してるんだよね?綺麗な奥さんがいるって」

「……お前なぁ」


今度こそ呆れたようにそう吐き捨てて。
羽毛布団を剥ぐと、駆は体を起こした。

瞬間、肌寒い空気に包まれる。


「有名な話だよ? 駆の結婚話」

「有名とか言われても……俺が知らねーから」

「って事は……」

「たんなるデマ。俺は独身だし。お察しの通り。今、お前を口説いてんだけど」

「……。えええっ」


く、口説いて?


カアアアと顔のみならず、体まで火照りだす。

駆って、どうしてそうストレートに……。
しかも、これ……夢っ!!?




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