花と蜜蜂
今日は特別冷える。
外は重たい雲が空を覆っていて、ホワイトクリスマスになりそうだ。
市街地にあるアパートの周辺はとても静かで、オレンジに灯る家の明かりが、人の存在を知らせていた。
時計に目を見ると、時間はすでに10時を回っている。
こんなに遅くなるなんて……。
もしかしてサトシになにかあったんじゃ……。
心配になって携帯を取り出すと、すぐにサトシからの着信。
驚いて、携帯を落としそうになる。
慌てて画面をタップして耳にあてた。
「もしもしサトシ?」
『うん、俺――……』
「なにかあった?もう帰ってくる?」
『ああー……』
なんだろう、すごく歯切れが悪い。
優柔不断のサトシだけど、一緒に暮らすようになってから、電話してくるのはすごくめずらしかった。
もしかして、呼び出し?
サプライズが苦手なサトシが、プロポーズをするためにあたしをどこかへ誘うんだろうか?
そう思うと、自然と胸が弾む。
彼の答えを待っていると、サトシは少しの沈黙の後、ためらいがちに言った。
『今日、遅くなる』
「え?」
『てゆか、もう帰んないから』
―――は?
そう言ったサトシの声は、すごくクリアで。
ああ、もう終わったんだと瞬間的にわかってしまった。