花と蜜蜂


今日は特別冷える。

外は重たい雲が空を覆っていて、ホワイトクリスマスになりそうだ。
市街地にあるアパートの周辺はとても静かで、オレンジに灯る家の明かりが、人の存在を知らせていた。


時計に目を見ると、時間はすでに10時を回っている。

こんなに遅くなるなんて……。
もしかしてサトシになにかあったんじゃ……。


心配になって携帯を取り出すと、すぐにサトシからの着信。
驚いて、携帯を落としそうになる。

慌てて画面をタップして耳にあてた。



「もしもしサトシ?」

『うん、俺――……』

「なにかあった?もう帰ってくる?」

『ああー……』


なんだろう、すごく歯切れが悪い。
優柔不断のサトシだけど、一緒に暮らすようになってから、電話してくるのはすごくめずらしかった。

もしかして、呼び出し?

サプライズが苦手なサトシが、プロポーズをするためにあたしをどこかへ誘うんだろうか?

そう思うと、自然と胸が弾む。

彼の答えを待っていると、サトシは少しの沈黙の後、ためらいがちに言った。



『今日、遅くなる』

「え?」

『てゆか、もう帰んないから』





―――は?





そう言ったサトシの声は、すごくクリアで。

ああ、もう終わったんだと瞬間的にわかってしまった。






< 5 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop