巡り愛


コンコンと個室のドアをノックすると、中から「はい」と小さな声が聞こえた。
僕は一呼吸置いてから、ゆっくりとスライドするドアを開ける。
ベッドの背もたれを上げて、座っていた北野が開いたドアの前に立つ僕を見て、びっくりして目を見開いた。


「入ってもいいかな?」


静かに声を掛けると、北野は無言で頷いた。


「体調はどう?」


ベッドの脇まで近寄って、そう声を掛けると北野は申し訳なさそうに眉を寄せて僕から視線を逸らせた。


「ごめん・・・迷惑かけたね」


俯いたまま、北野が小さな声でボソッと呟いた。


「そうだね」


僕が感情の起伏のない声で答えると、北野は眉を深く寄せて傷ついた顔をした。


「どんな事情があるにせよ、やっていいことではなかった。・・・でも、迷惑とは思っていないよ。目の前であの状況の人間がいたら、どうにかするのは医師として当たり前のことだ。まあ、彼女が不安になるようなことをされて腹は立ったけど、それも僕がちゃんと向き合わなかったせいだしね」


「・・・・・・・彼女とは大丈夫だった?」


「ああ、大丈夫。ちゃんとあの後、説明したから」


「そう・・・・・」


北野は口の中だけで小さく呟くと、悲しそうに瞳を揺らして、手元を見つめていた。


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