巡り愛
僕はそのままベッドの横に立てかけてあったパイプ椅子を取り出して座る。
北野は僕の行動には何も言わずにずっと俯いたままだ。
僕が椅子に座って、少しして、ぽつりと言葉を発した。
「矢野君にすごい剣幕で怒られちゃった」
「矢野が?」
北野は自嘲するように苦々しい笑みを浮かべて頷いた。
顔はまだ俯いたまま、手元を見ている。
でもその表情は悲しいだけじゃなくて、少し、吹っ切れたような顔をしていた。
「明け方、目が覚めたら矢野君が来て。『医者のくせに、バカか!!』っていきなり怒鳴られた。一番、取っちゃいけない方法だって。こんなことしても圭は振り向かないって・・・圭はやっと“本物”の相手を見つけたんだから、私の身勝手で振り回すなって・・・・・」
北野は苦しそうに眉を寄せて、涙声になりながら思い出すように言った。
僕は何も答えずにそれを聞いていた。