巡り愛
「私・・・・・ミスしたの。プライベートで少し色々あって、弱ってて・・・睡眠不足が続いてた日の当直の夜。救急で運ばれた患者が二人重なってね。投与する点滴を入れ違いした・・・・・」
北野はポツポツと布団の上に言葉を落とすように、淡々と話を続ける。
その表情にはさっきのような苦しそうな色はないけれど、他の色も何もない。
それが余計に痛々しく思わせた。
「私が間違って指示したことに看護師が気付いて・・・点滴が始まる前だったから、未遂だった。報告はして、それでも未遂で実害はなかったから、厳重注意だけで終わったの。・・・でも・・・・・・」
「自分が許せなかった?」
「!!」
黙ったまま聞いていた僕は、そこで初めて口を開いた。
その言葉に北野は息を呑んで、大きく目を見開いた。
「北野は完璧主義者だもんな。そんな小さなことでも、自分を許せなかったんだろ?」
北野は目を見開いたまま、苦しそうな表情をして口をへの字に曲げた。
「まあ、小さいと言っても、もし未遂に終わらずに間違ったまま投与していれば、それこそ大変なことになっていたけど。でも、ちゃんと間違いに気づいたんだから、自分を責めていても仕方ないよ」
「でもっ、医師として失格でしょ?体調が優れないとか、悩みごとがあるとか・・・そんな患者に関係のないことで、ミスするなんて。・・・いくら未遂でも、許されることじゃ・・・・・」
「そうだね。ちゃんとそれをわかっているなら、もう二度と同じことをしないようにすればいい。命を預かる立場だから気を緩めることはできないし、北野がそうだったなら悔い改めなきゃいけない。でも医師も人間だ。完璧じゃない。全力を尽くす努力は怠ってはいけないけど、完璧じゃないからって、自分を責めていても何も解決しないよ」
「圭・・・・・」
北野の目に涙が溜まる。
必死に耐えるように、口元を両手で押さえた。