巡り愛
「ホント、医師失格。矢野君に怒鳴られて当然だよね・・・あんなことしたって、圭に振り向いてもらえるはずないのに。迷惑かけて、本当にごめんなさい」
「もう絶対しないって誓ってくれよ。人の命を救う僕達が自分の命を軽々しく粗末にするのは間違っているから」
「はい・・・もう、絶対しません」
北野はまっすぐに僕の目を見て、強く頷いた。
僕を見る瞳はまだ涙に濡れているけれど、そこにはちゃんと北野らしい強さが戻っていて。
僕は心の中で、ホッと息を吐いた。
「私、圭の彼女にも謝らないといけないね」
「え?・・・あ、いや、あいには僕からちゃんと説明したから、もう大丈夫だよ。北野が直接謝る必要はないよ」
「・・・・・・」
僕のその答えに、北野は僕の心の奥を探るように目をじっと見て、プッと小さく噴き出すように笑った。
「そんなに警戒しなくても、私、何もしないよ?」
「いや、警戒なんて・・・してないけど」
明らかに動揺する僕に北野は声を上げて笑い出した。
「圭、ホント変わったね。そんなに感情豊かな圭、初めて見た。すごいな・・・それも彼女のおかげなんだね」
そう言って、北野の笑顔が少しだけ寂しそうに揺れた。
「あーあ、完敗かぁ・・・・・まあ、最初から・・・私達が別れる前からそれはわかってたことだけど・・・やっぱり、ちょっぴり悔しいなぁ」
そう言って笑う北野は、重たい荷物を下ろしたみたいな、すっきりした顔をしている。
そして、どこか意地悪そうな顔をして、「今度紹介してね」と笑った。
北野はその2日後に、無事に退院した。
帰る間際、見送る僕達に深々と頭を下げて、もう一度、謝罪の言葉を口にして。
「私、ちゃんとやり直して見せるから。医師として、ちゃんと向き合って自信を取り戻すから」
僕達にそう宣言する北野は、もうしっかり前を見ていた。
僕は・・・きっと矢野も、そのことが嬉しくて、笑顔で彼女を見送った。