巡り愛


「そう言えば、圭さんこんなところにいていいの?お仕事は?」


私は圭さんの白衣姿に見惚れていて気付いていなかったけれど、今は圭さんだって仕事中だということを思い出して、慌てて訊ねた。
でも圭さんはにっこりと笑うと、『大丈夫』と言って私の手に彼の手を重ねた。


「僕、今日は午前中の外来診察はないから。他の仕事も済ませてきたし、あいの検査に立ち会うよ」


「え、いいの?」


どんな検査をするのかわからない私は、ちょっぴり不安があった。
だから圭さんが立ち会ってくれることはとても嬉しいのだけど、本当にそれがいいのかどうかわからなくて。
戸惑いながら訊き返すと、圭さんは私を安心させるように優しく笑顔を深めた。


「大丈夫、矢野には僕も立ち会うって言ってあるから」


「え?・・・矢野さんが検査してくれるの?」


圭さんの口から思いがけない名前が出てきて、私はびっくりして更に訊き返した。


「あいの主治医はとりあえず矢野になるんだよ。まず矢野が問診をして、その後の検査は専門の担当者がやってくれる」


「そうなんだ・・・」


私は先日、圭さんが私を矢野さんに紹介したいと言っていた言葉を思い出して、急に別の緊張が胸に溢れてきた。
こんな風に会うことになるなんて思ってもみなかったから、なんだか変に緊張してしまう。


そんな私の気持ちを察してか、圭さんが重ねた手をギュッと握って笑いかけてくれた。


「僕がついてるから、あいはリラックスしてね」


「・・・はい」


優しい圭さんの表情と言葉に、私は少し落ち着いて静かに頷いた。


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