巡り愛
『水瀬あいさん、3番の診察室へお入り下さい』
静かな空間に私の名前を呼ぶアナウンスが聞こえた。
一瞬、隣の圭さんと目を合わせると、先に圭さんが立ち上がって、私の手を引くように立たせてくれる。
そして、その手を繋いだまま、3番と札のかかる部屋の前に歩いて行った。
今まで気づかなかったけれど、受付の中にいる看護師さんがこちらを見ている視線に気づいて、私は急に手を繋いでいることが少し恥ずかしくなった。
でも圭さんは手を離そうとしないし、その視線も全く気にしていないようで。
私は変にドキドキしながら、診察室の前に立つ圭さんの後ろに立った。
トントントンとドアをノックして、圭さんがスライド式のドアを開ける。
そして繋いだ手のまま、二人で診察室に入った。
「どうぞ・・・って、桐生。お前、マジでついてきたのかよ」
私より先に診察室に入った圭さんを見て、机の前に座る圭さんと同じ白衣を着た男の人が苦笑いした。
胸にかけられたネームフォルダーに『矢野』と書かれていて、この人が圭さんの言っていた矢野さん・・・矢野先生だとわかった。
圭さんとはまた違うタイプだけど、矢野先生もすごくかっこいい人だ。
長身で、細身の圭さんよりがっちりした体格。
キリッとした印象の顔は男の人らしくて、頼りがいのあるイケメンと言ったところかな。
「この前話した時も、今朝も、そう言っただろ?」
目の前の矢野先生を見ていた私は、圭さんの言葉に我に返って圭さんを見上げた。
矢野先生の少し呆れた言葉にまったく動じていない様子の圭さんは、当たり前のように答えるけれど、目の前の矢野先生の苦笑いした顔に私はやっぱり少し恥ずかしくなった。
しかも矢野先生の後ろに立つ看護師さんが、圭さんを見てびっくりした顔をしているから、余計に恥ずかしくなって、私は圭さんの後ろでどうしていいかわからなくなる。
「ほら、お前がそんなだから彼女、困ってるじゃないか」
「あい?」
矢野先生のからかうような言葉に圭さんが後ろの私を振り返って、俯き気味の私の顔を覗く。
矢野先生の言うとおり、恥ずかしくて戸惑っている私は、その圭さんの視線に余計に顔が赤くなるのを感じた。