巡り愛
「変な言い合いを聞かせちゃってごめんね。改めて、はじめまして。桐生の同僚で心臓内科の矢野です。今日は問診とか検査とか一通りやらせてもらうけど、よろしくね」
にっこり笑ってくれる矢野先生に私も小さく頭を下げて『よろしくお願いします』と答えた。
そんなやり取りを見ていた圭さんが、『はぁ~』と溜息を吐いた。
私の隣に立つ圭さんを見上げると、圭さんは困ったような顔をしていて。
何か私が困らせてしまったのかと瞬きをして見ていると、圭さんはその私の視線に気づいて、表情を和らげて優しく微笑んだ。
「矢野はこんなだけど、仕事はできるから安心して。僕も一緒にいるしね」
「・・・うん、ありがとう」
圭さんの優しい表情に心が温かくなって、少しだけ残っていた不安と緊張が完全に解れた気がして私も笑い返した。
「・・・こんなって失礼だな。しかもここで見せつけるってナイだろ」
矢野先生の呆れたような言葉の意味を察して、私は恥ずかしくなって小さく『すみません』と呟いた。
「あいちゃんは気にしないでね。桐生がダメなんだから・・・って、そんな怖い顔で睨むなよ。わかったよ、今日はこれくらいにしとくって」
「・・・・・今日はってなんだよ。だから矢野には極力会わせたくなかったんだ」
笑顔の矢野先生と機嫌の悪い圭さん。
正反対の二人の掛け合いは、それでもちゃんとその奥に信頼があってのものという気がした。
私は会話の内容に照れながらも、それでも圭さんの普段とは違う一面が見れて、微笑ましい気持ちになった。
「それじゃあ、桐生をからかうのはここまでにして。問診から始めようか」
矢野先生が笑顔だけど、真剣さを滲ませて、医師の顔になって私への問診を始めた。
圭さんは矢野先生の奥にあった椅子を持ってくると、私の隣に座って、その様子を見守るように私を見つめていた。