巡り愛


去年の冬、あいは風邪をこじらせてしまった。
念のためと言って、入院することになって、風邪もしばらくしてよくなったのに、なかなか退院できずに、もう半年が過ぎていた。


体調が戻ったのにどうして退院できないのかとあいの担当の先生に訊いた僕は、あいの心臓は僕が思っているよりもずっと悪いのだと初めて知った。


『残念だが今の医学では特効薬も治療法もないんだ。だからできるだけ穏やかに暮らしていくことが一番の方法だ。冬にこじらせた風邪のせいで心臓にもかなり負担だったみたいでね。今はもう少し入院してゆっくりと過ごした方がいい』


先生のその言葉に僕は頭を何かで殴られたような気がした。


あいの心臓は風邪をこじらせたくらいで、弱ってしまう。
でもそんなあいの心臓を治療する方法も薬もない。


その事実に僕は胸が張り裂けてしまいそうなほど、怖さを感じた。


あいがもし・・・・・


脳裏に浮かんだその言葉を、僕は必死に掻き消した。


もしなんてこと、思ってはいけない。
少しでも思ったら、現実になりそうな得体のしれない怖さを感じて、僕は懸命に心に湧いた恐怖と不安を追い出そうとした。




< 145 / 304 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop