巡り愛
「ほら、あい。明日までこのブローチをここにつけていれば僕と一緒にいるみたいだろ?」
自分の抑えきれない想いを呑み込みながら、僕はベッドの脇に置いてあったブローチをあいの部屋着の胸元につけた。
さっきまで着ていたワンピースに付いていたブローチ。
着替える時に外して、ベッドの脇に置いていたもの。
それは僕からあいへ贈ったものだった。
入院するあいのそばにずっとはいられない僕の代わりに、あいに身につけてもらいたくて。
僕がいない時に、少しでも僕を思い出してほしくて。
僕があいに贈った初めての贈り物。
あいはとても喜んでくれて、毎日それを身につけてくれていた。
ブローチをつける僕の手元を見つめていたあいは、部屋着についたブローチを満足げに撫でながら笑顔で僕を見上げた。
「ありがとう、圭さん。ずっと圭さんと一緒にいるみたいで、嬉しい」
笑顔のあいの頬に掠めるだけの口付けをして、僕は彼女の頭をポンポンと撫でた。
「じゃあ、明日の朝来るからね」
「はーい」
さっきみたいな悲しい顔じゃなく、満面の笑顔で頷いて小さく手を振るあいに僕も手を振り返しながら、あいの病室を後にした。
後ろ髪をひかれる思いはもちろんあるけれど、僕はこれから仕事があるから。
急いで自宅へ戻った。