巡り愛
「ありがとう、矢野。僕、肝心なことを思い出したよ」
自分を取り戻した僕を見て、矢野はふんっと鼻を鳴らして笑った。
「お前と出逢って、お前と一緒にいるからって病状が悪化するとか、非科学的すぎるんだよ。お前、医者だろ。もっと現実的に考えろよな」
さっきまで僕の前世の記憶について、肯定的とも取れる言い方をしていたのに、一転して非科学的な僕の思考に呆れている矢野に、僕は苦笑いが漏れた。
まあ、確かに。
記憶のことは置いておいて、僕と一緒にいることだけで病状が悪化するなんてことは、矢野の言う通り非科学的だろうな。
そんな根拠もないことに恐れるなと、矢野は言いたいんだと思った。
だから僕は苦笑しながらも、矢野の言葉に素直に頷いた。
「そうだね。悲観的になり過ぎてたみたいだ。ちょっと前世の僕に引きずられ過ぎてたかな」
「・・・・・前世とか・・・なんかすげぇけど・・・現実にあいちゃんと出逢ってるんだからな・・・まあ、何とも言えないけど」
やっぱりそこは複雑なのか、矢野は難しい顔をして独り言のように呟いていた。
「そういうあいちゃんはお前の言う前世の記憶ってやつがあるのか?」
「うーん、僕みたいに色々は覚えていないみたいだけど。でも僕のことは覚えていたよ・・・いや、思い出したって方が適切な言い方かな。でも“あの頃”のことは感じるみたいだよ」
「ふーん・・・よくわかんねぇけど、すげぇな」
僕は難しい顔のまま感心している矢野が可笑しくて、思わず吹き出してしまった。
そんな僕に矢野は怒っているように見せていたけど、その目は優しげに笑っていた。
僕は矢野って存在にいつも助けられているような気がする。
図々しかったり、色々と遠慮のないヤツだけど、やっぱり矢野は僕にとって大事な存在なんだと思えた。
僕は心の中でもう一度、矢野に感謝をした。
そしてもう迷わないと改めて強く思っていた。