巡り愛
「あいちゃんのそばには桐生がいるから、安心だ。こんなやつだけど、医者としてはまあまあ優秀だから」
「・・・ソレ、この間の仕返しか何か?」
矢野先生は先週、この診察室で圭さんが矢野先生について言った台詞と同じような言い方をしてニヤリと笑った。
圭さんもそれに気付いたのか、とても嫌そうな顔を見せてじろりと矢野先生を睨んだ。
「いやいや、桐生先生は優秀なドクターですよ」
矢野先生の棒読みの台詞に圭さんは『はぁ~』と溜息を吐いた。
「まあ、冗談は置いといて。桐生は頼りになるはずだから、あいちゃんもそんな不安そうな顔しないで頼るといいよ。痩せても枯れても医者だからね」
「・・・はずとか、痩せても枯れてもとか・・・散々だね、僕」
そんな二人の言い合いに、私は思わずクスリと笑い声を零した。
私が不安そうな顔をしていたから、矢野先生は気を遣ってこんな言い方をしてくれたんだろう。
圭さんもそれをわかっている上での応対だったのだと思う。
二人の優しい気遣いに、私は笑顔を見せてお礼を言った。
病気のことに関しては、圭さんと矢野先生に説明してもらったように、心配するほどのものではないと理解できていた。
お医者様である圭さんがそばにいてくれるのも心強い。
「それじゃあ、生活での注意事項も含めてもう少し詳しい話をするよ」
笑顔を見せた私に安心したのか、矢野先生がにっこりと笑って詳しい説明を始めた。
その隣でやっぱり優しく私を見つめてくれる圭さんも少しホッとしたような顔をしていた。
けれど・・・
私は矢野先生の話を聞きながら、心の奥で膨らんだ“不安”を燻らせていた。