巡り愛


「中野さんは何がいいですか?」


僕が自販機の前でそう訊くと、中野さんから「ブラックのコーヒーで」という答えが返ってきたから、先に自分用に買っていたのと同じブラックコーヒーのボタンを押した。


「どうぞ」と手渡した缶コーヒーを「ありがとう」と言いながら受け取った中野さんの隣に少しだけ距離を開けて座った。
そして、一口、コーヒーを口の中に流し込んで、僕は中野さんへ質問を始めた。


「あいは朝から様子がおかしかったのかな?」


「・・・朝は特に変わりなかったと思います。いつも通り、業務予定を確認して、みんなにお茶を配ってくれて・・・ちょっといつもと違うかもって思ったのは、雨が降り出してからでした」


「・・・・・雨・・・?」


“雨”というキーワードに、心がギシっと軋んだ気がした。


「ええ、水瀬ちゃん、雨の音が気になるみたいで、何度も雨が打ち付ける窓を見てました」


「・・・そういうのって、今までもよくあったの?」


「いいえ。今までは雨が降ってても気づかないで仕事に集中しているような子だし。今日みたいなことは初めてです」


「そう・・・・・」


小さく呟くように相槌を打った僕をちらっと見て、中野さんは話を続けた。



< 170 / 304 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop