巡り愛
「そのうち何だか真っ青な顔で苦しそうに胸のあたりを押さえ出して・・・私の声も聞こえていない感じでした。救急車が来るまでの間もずっと苦しそうで。うわ言みたいに『ブローチ、ブローチ』って。『探さなきゃって』言いながら、涙流してて・・・こんなこと今までなかったし、水瀬ちゃん・・・どうしちゃったんでしょうか?」
あいのことを心配している中野さんの目にも薄ら涙が溜まっている。
僕は小さく息を吐き出すと、中野さんに笑いかけた。
あいをこんな風に心配してくれる人が近くにいることが、嬉しかった。
「教えてくれてありがとう。聞けてよかった。それに中野さんがあいのことをそんなに心配してくれてることも、嬉しいな」
「そんな・・・私は水瀬ちゃんに何もしてあげられないですから」
僕の言葉に力なく呟く中野さんの目を見て、僕は首を左右に振った。
「違うよ。中野さんがあいについていてくれてすごく助かった。それに中野さんの心遣いを知ったら、あいだってすごく喜ぶと思うよ。本当にありがとう」
「桐生さん・・・」
そう言った僕に中野さんは少し照れたような笑顔を見せた。
その中野さんに笑顔に僕も笑顔を返した。
「あいの目が覚めたら連絡するよ。また会いに来てやってね」
「はい!絶対来ます。桐生さん、水瀬ちゃんのことよろしくお願いします」
いつもの元気な彼女に戻った中野さんをエレベーターの前まで見送ると、中野さんは僕に乗り込んだエレベーターの中から「連絡待ってますから!」と笑顔で言って、帰って行った。