巡り愛
中野さんを笑顔で見送った僕は、エレベーターのドアが閉じると同時に、深い溜息を吐いた。
さっき中野さんから聞いたあいの様子を思い出して、ずっと心がギシギシと痛んでいた。
“雨”
“ブローチ”
その二つのキーワードは確実に“あの頃”の記憶の断片があいの中に甦っていた証だろう。
これまで雨に特に何も感じていなかったあいが、急に倒れるほど心を乱した原因は、やっぱり僕・・・そうとしか思えなかった。
中野さんを見送った後、僕は再びあいの病室に戻った。
ドアを開けてベッドに目をやると、さっきと同じ姿勢のまま眠っているあいの姿があって。
ずっと眠り続けたままだということが、無性に不安を煽る。
このまま目覚めないなんてことはない。
そう自分に言い聞かせても、膨れる不安と痛む心は増すばかりだった。
「・・・あい。目を覚まして・・・僕を見て、名前を呼んでよ」
眠るあいの枕元に立って、あいの閉じられた瞼にかかる前髪に触れながら僕は眠るあいに懇願するように、小さく語りかけた。