巡り愛
トントンとノックの音がして、病室のドアがゆっくりと開いた。
そこから顔を覗かせたのは、予想通りの人物。
「あいちゃん、まだ目覚めないのか?」
ベッドで眠るあいをちらっと見て、矢野が神妙な面持ちで訊いてきた。
「ああ・・・ずっと眠ったままだよ」
あいの枕元に座る僕が静かに答えると、矢野は「そう」と呟いて小さな溜息を洩らした。
「お前、ちょっとは休んだら?」
あいから視線を僕に移した矢野が、心配そうな目をして言ってくれた言葉に、僕は小さく首を振る。
あいが目を覚ましたその瞬間に、僕がそばにいたいから。
あいが目覚めるその瞬間まで、片時も離れたくないから。
「・・・あいがこんな風になったのは、僕のせいなのかな?」
あいが倒れた原因も。
今、目覚めない原因も。
全部僕にある気がして。
僕が・・・あいのそばにいるから思い出す必要のない記憶に乱されているんじゃないかって、不安ばかりに襲われていた僕は、かなり弱気になっていた。
「バカか!」
そんな僕に矢野は怒ったように怒鳴りつけた。