巡り愛


「お前が抱えてきたものの重さは俺には想像もできないけど、今、お前の目の前にいる彼女は幻でも記憶の中だけの人でもないだろ?相手を幸せにしたいなら、お前が不安に押し潰されてる場合じゃないと思うけどな」


「そう、だね・・・」


なぜか矢野の言葉に、胸がギュッと痛くなって泣きそうになった。
でも今は、泣いてる場合じゃないから、目を閉じて深く息を吐くことで込み上げてくる涙をグッと押し止めた。


「矢野って見かけに寄らず・・・大人だったんだな」


僕を想って言ってくれた矢野への照れ隠しに、苦笑しながらそう呟くと、矢野はあからさまにムッとした顔をした。


「あぁ?見かけに寄らずってなんだよ。俺はお前よりは十分大人だぜ」


「普段は軽そうなのにね」


「お前は落ち着いた見た目と違って、かなり危なっかしいよな。もうちょっと自信持ったら?色んな事に・・・」


「・・・もう、大丈夫だよ」


矢野の言葉に含まれたその意味をちゃんと理解して、僕は少しだけ苦い顔をして笑った。



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