巡り愛
『やべぇ、回診の途中だった』と矢野が慌てて病室から出ていって、僕はまたあいの枕元の椅子に腰を下ろした。
眠り続けているあいの目元にかかる前髪に指を通すように触れた。
あいの柔らかな髪の感触に、ひどく心が切なくなる。
愛しくて堪らないと、僕の心が悲鳴を上げてる。
だから。
「もう迷わないから。もう不安に落とされたりしないから・・・だから目を覚まして、あい」
呟くように、懇願の言葉を口にした。
「・・・・・ん・・」
僕の言葉が病室の空気に消えてしまうその瞬間、あいが小さく身動ぎした。