巡り愛
「また矢野に怒られたよ。あいが不安を感じてるのは僕の不安が伝染したんだって。今日、倒れたのは僕のせいだね」
「そんなっ、ちがっ!」
「僕のせいだ。僕が弱くて不安に引き摺られてるから、あいまで不安にさせた。本当にごめんね」
圭さんが浮かべる苦しげな笑みは切なくて、私まで心が痛くなる。
でも圭さんの瞳はもう、ちっとも揺れていなくて。
その代わりに何か強い決意みたいなものを漂わせていた。
「・・・あい、ブローチのこと思い出したの?」
「え・・・ブローチ?」
不意に出てきたその単語に、ドクンと一つ、鼓動が揺れた。
「中野さんが教えてくれた。倒れたあいが『ブローチを探さなきゃ』ってうわ言で言っていたって・・・何か思い出したの?」
靄がかかったような頭の中に、何かの断片みたいな記憶の欠片が溢れてくる感覚がして、私はなぜか怖くなって、目の前の圭さんの胸にしがみついた。
「つらい記憶かもしれない。僕には・・・つらい記憶だから。ずっとその記憶に引き摺られて不安になって、あいまで苦しめた。でも・・・あい、聞いてくれる?“あの頃”の僕とキミの話を・・・」
『キミに聞いてほしいんだ』
圭さんはしがみついた私にとても優しく、とても真剣にそう言った。
その声に顔を上げると、圭さんの真摯で強い瞳に見つめられていて。
私は小さく頷いた。