巡り愛
静かに、穏やかに。
圭さんが紡ぐ“あの頃”の話は、私にはどこか物語の中のことのように思えた。
病室のベッドの上に座る私とベッドサイドの椅子に座る圭さん。
ベッドの上で手を握り合っていた。
時々、圭さんが握る手に力を込める。
俯きがちに話を聞いていた私が、そっと視線を向けると圭さんはキュッと眉を寄せて何かに耐えるような素振りを見せた。
私に話して聞かせながら、圭さん自身がその思い出につらくなってるのかもしれない。
圭さんが話してくれたのは、“あの頃”の2人が出逢った幼い頃のことから始まって。
体の弱かったという前世の私を守るように過ごしていたこと。
いつの間にか2人は想い合うようになって、恋人同士になったこと。
心臓に病を抱えていた前世の私が入院して、それでも2人は穏やかに幸せに過ごしていたこと。
そして―――…
前世の圭さんが仕事で病院に行けない間に起こった悲しい出来事。
圭さんがプレゼントしてくれたというブローチを失くした私が、大雨の中、必死に探して・・・そして。
「キミは僕の夢の中で『いつか必ず、あなたの元に帰るから』って・・・そう言ったんだ」
圭さんは大きく息を吐き出しながら、呟くようにそう言って、私を真摯な瞳で見つめた。
繋いでいない方の手を伸ばして、そっと私の髪を梳くように撫でる。
私を見つめている圭さんの瞳が、愛しいものを見つめるように優しく細められた。
「キミはやっと僕のところへ帰って来てくれた。キミは僕の心の中にだけ存在する幻なんかじゃない。こうして触れることができて、こうして・・・抱きしめることもできる」
圭さんはそう言いながらゆっくりと立ち上がって、私を胸の中に引きよせて、ギュッと抱き締めた。
抱き締められた胸の前で、繋いだままの私の手に触れるだけのキスをした。
優しく手に触れた圭さんの唇の熱が私の体中に広がるように、微かな電流みたいなものが走った。