巡り愛
「泣かないで・・・」
切なそうに呟いて、圭さんは私の目元を繊細なその指先で優しく私の涙を拭うように撫でる。
泣いている自覚のなかった私は、初めて自分が泣いていることに気づいた。
ふわりと。
私の中に圭さんの話してくれた“あの頃”の記憶が溢れてくるように甦る。
物語の中のお話のようだったものが、私の中で鮮明な記憶になる。
圭さんへの想いも。
私自身の想いも。
あの時・・・圭さんと別れを告げたあの時の想いも。
すべてが私の中でくっきりと形をなした。
「・・・圭さん・・・・・」
ただ名前を呼んですぐ目の前で顔を見つめるだけの私から圭さんはすべて悟ったように頷いて、私の背中を抱き締めてくれる腕と繋いだ手に力を込めた。
「つらい思いをさせてごめんね。でも・・・もう僕らはあの時のように離れたりしないから。どんなことがあっても、ずっと一緒にいられるから。たとえキミがまた病に侵されても、僕が絶対に守るから。だから僕は医者に・・・心臓外科医になったんだ」
「・・・私のため?」
圭さんがお医者様に、心臓外科医になった理由が私だと告げられて驚く私に圭さんは静かに首を縦に振った。
「もし巡り逢えたキミがまた、心臓に病を抱えていたら今度こそ僕が守ろうって決めていたから」
はっきりと口にした圭さんの言葉に、私は嬉しさで震えた。
ただ記憶の中にいただけの私のために。
出逢うかどうかもわからない私のために。
圭さんがお医者様になってくれたということが、どんなに大きな想いの上にあるのかと思うと、心が締め付けられるほど、痛くなった。
それは嬉しいとか幸せとか、そんな気持ちを遥かに超えていて。
私は圭さんの想いの深さと大きさを改めて感じた。