巡り愛


「それなのに、いざキミに出逢ったら例えようがないほど嬉しかった反面、すごく怖くなったんだ」


「・・・え?」


抱き締めた私の肩に顎を乗せるような姿勢で、圭さんがぽつりと言った。


「出逢ったキミは心臓が悪いようには見えなかった。記憶もほとんどないみたいだったし。でも僕と出逢って、僕のことを思い出してくれて。あの頃のこともいつか思い出すかもしれない。もしかしたら、病気も・・・出逢った僕のせいで、僕と一緒にいるせいでキミを苦しめるんじゃないかと思ったら、堪らなく怖かった」


抱き締める腕を緩めない圭さんは、私に顔を見せないようにして、苦しげな呟きを重ねる。
圭さんの苦しい気持ちが伝わってくるように、私の心にも痛みが溢れた。


「キミと一緒にいられて本当に幸せだと思ってた。でも・・・一緒に高原に行ったあの日、キミが苦しそうに胸を押さえているのを見て、恐れていたことが現実になったと思ったんだ」


気持ちを吐き出すように、圭さんが小さく息を吐いた。
私はただ、圭さんの腕の中でじっと話を聞くだけしかできない。
今は、圭さんの心に溜まっていた想いを聞くことが、私のできることだと思ったから。


「あいに検査を受けてもらって、不整脈だと・・・心臓に係わる病気だとわかった時、尋常じゃないくらい焦った。冷静に医者として考えれば、そんなに不安になる必要はないはずなのに、やっぱり僕が一緒にいることがあいに病をもたらしたんじゃないかってそう思ったら。僕が一緒にいたらもっとあいの病気をひどくするんじゃないかとさえ、思った」


そこまで話して、圭さんはふっと自嘲気味な笑みを零した。
表情は相変わらず抱き締められているから見えないけれど、圭さんの零す吐息がそう私に感じさせた。



< 184 / 304 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop