巡り愛
退院した私は圭さんの車で送ってもらうことなった。
圭さんは元々、今日はお休みだったらしい。
もしかしたら、私のためにお休みを取ってくれたのかもしれない。
ちらっとそう思った私だけど、もしそうでも 圭さんは違うって言うだろうなと思って、一緒にいてくれる圭さんの気持ちに素直に感謝して甘えることにした。
私のマンションに向かっていると思っていた圭さんの車は、途中で違う道を選んで進んでいく。
あれ?と思って、ちょうど赤信号で車を止めた運転席の圭さんに視線を向ける。
私の視線に気づいた圭さんは私を見ると、にこっと笑った。
「温泉にでも行ってのんびりしようか?」
「え?」
突然の圭さんの提案にびっくりして瞬きを繰り返す私は、その意味を理解するのにたっぷり十数秒かかった。
「温泉?」
「近場になってしまうけど、急でも泊まれる旅館を知ってるから。ちょうど中野さんが届けてくれたお泊まりセットもあるしね」
昨日私が入院することになったことを知った中野さんが気を利かせて、わざわざお泊まりセットを持って来てくれたらしい。
お泊まりセットっていう言葉も圭さんが言うとなんだか違って聞こえる・・・なんて、意識し過ぎかな?
でもさらに、ニヤリと口角を上げて意味ありげに笑う圭さんはどこか大人の色香が漂っているから、私は思わずドキンと鼓動を跳ね上げた。