巡り愛
お母さんに案内してもらったお部屋は5階建ての旅館の最上階にあるとても広いお部屋だった。
引き戸になっている部屋の格子戸を開けると、小さな坪庭があって、その奥の障子戸の先に二間続きの広い和室が広がっていた。
部屋の奥にも障子があって、そこを開けると山手に立つ旅館の眼下に広がる街並みがとても綺麗に見えた。
「すごい・・・」
思わず感嘆の声を上げると、お母さんは嬉しそうにふふっと吐息を零して笑った。
「そうでしょ?うちの自慢のお部屋なの。今日はここで思いっきりゆっくりしてね」
「はい!ありがとうございます」
私もお母さんに笑顔を向けると、お母さんはさらに嬉しそうに笑顔を深めた。
「じゃあ、どうぞごゆっくり。お風呂もとっても気持ちいいからぜひ入りに行ってね」
お母さんはそう言うと、笑顔で部屋を後にした。
お母さんが部屋の格子戸を閉めたところで、私は思わずふぅっと息を吐き出した。
いきなりの展開にびっくりしていたけれど、やっぱり緊張していたんだと実感した。
「・・・・・ごめんね、あい」
そんな私を見て、圭さんは申し訳なさそうに眉を下げている。
「ここに着いたら説明しようと思ってたんだけど、その前に母さんが出てきちゃって。説明もなしに会わせる形になって、ホントごめん」
「うん、びっくりしちゃったけど。でもとっても素敵なお母さんだし、急に来た私のことも歓迎して下さってて、嬉しかったよ」
ここに圭さんが連れてきた女の子は私が初めてってことも。
私のことを『大切な人』ってお母さんにはっきり紹介してくれたことも。
とってもとっても嬉しかった。