巡り愛
「でも圭さんのご実家がこんな立派な旅館だなんて、ホントびっくり」
「うちは昔から・・・“あの頃”からずっとこの旅館だよ」
圭さんの口から出た“あの頃”が前世のことだとすぐにわかった。
それと同時に、私の中にまたふわりと打ち寄せる波のように記憶が甦る。
ああ、そうだ。
圭さんのお家はあの頃も温泉旅館をしていたんだ・・・
そのお家のお仕事を手伝っていた圭さんの姿が私の中にも鮮明に思い出された。
「・・・思い出した?」
私の表情を見て、圭さんが穏やかに訊く。
でもその声の奥に心配そうな影を滲ませているから、私は微笑みながら頷いた。
「うん、思い出したよ」
笑顔ではっきり告げた私に、圭さんは安堵の色を浮かべる。
私があの頃の記憶を思い出すことに圭さんはまだ少し不安があるのかもしれない。
でもそれはずっとずっと一人で記憶を抱えていた圭さんには、仕方がないことなのかもしれないと思った。
圭さんはそれだけ長い間、一人でその記憶と共にいたんだ。
私には想像もできないくらいにつらいこともあったのかもしれない。
「あい?」
圭さんが心配そうに私の顔を覗き込む。
私は気を取り直すようにもう一度、微笑みかけると圭さんの背中に腕を回して、その胸に寄り添った。
「大丈夫だよ。ずっと一緒にいるって言ったでしょ?あの頃の記憶ももう全部、2人で一緒に思い出にできるから」
―――…圭さん一人で抱えてなくていいんだから。
嬉しい記憶もつらい記憶も。
それが現世(今)にもたらしたこと全ても。
2人のものにしよう・・・・・
ねぇ、圭さん。