巡り愛
部屋に戻ると、さっきまで並んでいたお膳はすっかり片づけられていて。
その代わりに広い部屋の真ん中には、ふわふわの布団が二組、ぴったりとくっついて並んでいた。
「・・・・・・・・」
ただ布団が敷かれているだけなのに、思わず襖の前で立ち止まってしまった。
戻ってくる間にすっかり冷めていた熱が頬に集まるのがわかる。
こんなことで照れてたら、圭さんに意識し過ぎだって呆れられちゃう。
そう思って、私は慌てて自分の荷物の置いてある部屋の隅に向かった。
でも内心はドキドキし過ぎていて。
そんな私のぎこちない様子に圭さんが後ろでクスッと笑っていたなんて、まったく気付かなかった。
「あい・・・」
無駄に時間をかけて、荷物の整理をしていた私を圭さんはいつもの優しい穏やかな声で呼んだ。
圭さんの優しい呼びかけにもピクッと肩を揺らしてしまう私は、本当に情けない。
自分の過剰な反応が恥ずかしくて、おずおずと顔を上げる私を圭さんは優しい笑顔で見つめてくれていた。
「疲れただろ?・・・おいで」
布団の上に座る圭さんが私を招くように手を伸ばした。
声のトーンがいつもより少し低くて、色香を醸し出している。
くらっとしながらも、ゆるゆると立ち上がると、私はゆっくりと圭さんの元へ歩いて行った。
『・・・おいで』
艶やかなその声と言葉に魔法をかけられたみたいに逆らえなくて。
元々逆らう気持ちなんて、露ひとつないけれど。
私は吸い寄せられるように圭さんに近づいて、伸ばされた手に自分の手を重ねた。
私の手をゆっくりと引いて、目の前に私を座らせた圭さんは繋いでいない方の手で私の髪を梳くように撫でた。
じっと私を見つめる瞳は吸い込まれそうなほど澄んでいて、どうしてこんなに綺麗なんだろうと頭の片隅でボーっと思った。