巡り愛
そんなことを考えながらも、私はドキドキと速まっていく鼓動に思わず胸の前をキュッと押さえた。
「苦しい?大丈夫?」
些細なことでも気付いてくれる圭さんは、心配顔ですぐに私の顔を覗き込んだ。
「心配しないで、何もしないから」
「え?」
穏やかに微笑む圭さんに私は小さな声を零した。
それに頷くように圭さんは微笑みを深くした。
「この間みたいにあいを抱き締めて一緒に眠るだけで、十分だから」
静かにそう言った圭さんに私は心がズキっと痛くなるのを感じた。
『我慢しないでほしいのに。私は今、あなたと一つになりたいのに』
頭の中でもう一人の私・・・“あの頃”の私の声が聞こえた。
その声とともに、フラッシュバックするようにある記憶が甦った。
そうだ。
あの時も、圭さんは今と同じことを言ってただ眠るだけだった。
さっき圭さんが言った“この間”というのは、北野さんとのことがあったあの夜のこと。
でも私が今、思い出した“あの時”は、前世の記憶。
前世の私が入院する前日、こうして圭さんのお家が営む旅館で2人で過ごした。
その時も圭さんはさっきと同じ台詞を言って私達は一晩、抱き締め合って眠った。
それは圭さんが私の体を気遣ってくれた優しさだった。
でも本当は、私はあの時、圭さんと一つになりたいと・・・心も体もすべて圭さんのモノになりたいと心から願っていたんだ。
圭さんは私が元気になったら・・・そう言ってくれたけど。
私もそれを信じていたけど。
結局・・・・・・その願いは叶わないまま私は圭さんの前から旅立った。
圭さんに愛されて、短い人生にも悔いはなかった。
それは真実だと、今の私にも十分に伝わってくる。
でも、ただ一つ。
悔いがあるのだとすれば、それはあの夜、圭さんと結ばれなかったこと。
頭の中で、心の中で。
前世の私が強く思っている。
『もう、あなたに我慢させるのは嫌。今、あなたが欲しい…―――』
と・・・・・・・