巡り愛
「明日は午前中にはお仕事終わるの?」
ドキドキと煩い鼓動を何とか無視しながら、私は触れるほど間近にある圭さんの瞳を見つめて訊いた。
「そうだな、引き継ぎした後に少しだけ片付けたい仕事があるからお昼前には帰れるかな」
圭さんもじっと私の瞳を見つめて答えてくれる。
その口調はごく普通なのに、私を見つめている圭さんの瞳はなんだか少し熱っぽい。
私は逸らせない視線に頬の熱が上がるのを感じていた。
「それじゃあ・・・ご飯作っておくからここに帰って来て?」
熱に浮かされたようなふわふわした感覚と、ドキドキと速めに刻まれる心音。
私は初めて口にする圭さんへの我儘なお願いを思わず呟いていた。
「あい、それは・・・」
「え・・・あ、ううん、ごめんなさいっ。当直明けで疲れているのに、うちに来てなんてないよね!気にしないで、忘れて・・・」
圭さんがびっくりした顔で聞き返そうとしたのを見て、私は我に返ってハッとした。
この状況につい本音を零してしまったけど、なんて我儘なことを言ったんだろう。
私は慌てて訂正しながら、圭さんの腕の中でおろおろと暴れた。
でもそんな私を圭さんはまたギュッと抱き締め直すと、真顔で私を見つめた。
「無理。忘れられないから。今僕がどれだけ嬉しいかわかる?」
「・・・え?」
意外な圭さんの『嬉しい』の言葉に、私はぴたりと動きを止めて、抱き締めてくれている彼の顔を見上げた。