巡り愛
駅ビルの1階にあるカフェで向かい合って座る彼と私。
なんだかとても不思議で、でも全然嫌な気持ちがしなくて。
私はこの状況も自分の感情もよく理解できなくてどうしていいのかわからない。
それでも彼の言った私と『ずいぶん前に』出逢ったことがあるという言葉の真意が知りたくて、私は飲んでいたカフェオレのカップをテーブルに置きながら、口を開いた。
「前にお会いしたことがあるっておっしゃってましたけど、いつ頃ことですか?」
「かなり前のこと・・・かな?」
さっきと同じ答えが返されて、私は首を傾げながら彼を見つめる。
かなり前っていつくらいのことだろう。
どうして私はそれを覚えていないのだろう。
だって、こんなに素敵な人に出逢っていたら、いくらかなり前のことでも忘れることなんてできないと思うのに。
思わずじっと見つめていた私の視線から目を逸らすように彼が小さく溜息を吐いた。
その溜息に心が急に不安になって、私は眉を寄せてしまう。
「・・・・・うそ、なんですか?」
「え?いやっ、うそじゃないよ」
私の言葉に彼は慌てて、顔の前で手を振りながら否定する。
その姿は確かに真剣で、嘘をつかれているような気はしない。
でも・・・・・
「・・・これから話すことは嘘だとかキミをからかってるとかじゃないって信じてほしいんだけど」
「・・・はい」
訝しがる私に彼は何かを決意したような顔をして、さっきよりももっと真剣な表情を私に向けた。
私はそれに小さく頷いて、彼の言葉を待った。
彼のこの真剣な姿の答えを。
私の心に広がる不思議な感覚の答えを。
どうしても知りたくて。
「僕には生まれた時から『ある記憶』がずっと心の中にあってね・・・」
彼のどこまでの真剣な言葉が静かに紡がれ始めた。