巡り愛


「そっかぁ、桐生が結婚か・・・お前に先越されるとは思ってなかったな。でもまあ、おめでとう。お前がそこまで想える相手が現れてよかったよ」


「ありがとう」


僕が結婚を決めたことへなのか矢野は未だに複雑そうな顔をしているけど、それでも『おめでとう』と言った顔からは矢野の祝福の気持ちが伝わってきた。


「でも桐生が結婚するなんて聞いたら、病院中の女が発狂しそうだな」


ニヤリと笑って矢野が面白そうに冗談めかして言った台詞に僕は肩をすくめて無表情で答えた。


「まさか、そんなことないよ」


「いやいや、桐生先生は東都大病院一モテますからね」


矢野がわざとらしく棒読みで言う。


自分だってやたらとモテるくせに、何言ってるんだか。


呆れ顔の僕に矢野は口角を上げて笑って続けた。


「あいちゃんが運ばれて来た日だって俺、質問攻めにあって大変だったんだぞ!いつもは冷静沈着なお前が血相変えて慌ててるし、入院するあいちゃんに付き添うしで。周りは大混乱だよ」


矢野は言い方が大袈裟なんだ。
確かにあの時は慌てていたから周りなんて見えていなかったけど。


「・・・悪かったよ」


僕が憮然としてボソッと言うと、矢野はますます嫌らしく笑みを深めた。


「で、モテモテの桐生先生は愛しのあいちゃんとヤることはヤったんですね?結婚決めるくらいだもんな、当然か。ああいう時のあいちゃんもめちゃくちゃ可愛いだろな・・・痛っ!」


「矢野、それ以上は黙れ。あいのこと想像するとか許さないよ?」


「恐ぇ!お前のその冷徹な顔マジ恐いから。あいちゃんも引くぞ」


ふざける矢野の頭を容赦なく叩いた僕に矢野がまたしても大袈裟に反応して見せる。
僕は無表情で矢野を睨みつけた。


< 230 / 304 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop