巡り愛
「ところで・・・本当に指輪はしていかないの?」
笑い返した私に圭さんも満足げに笑顔を深めてくれた。
でもその次の瞬間に、少し顔色を曇らせて私の左手を取って、指輪の嵌っていない薬指を撫でた。
「・・・う、ん・・・傷でもつけたら嫌だから。私、おっちょこちょいだから心配」
スゥーッと指を撫でられて、ドキンと鼓動が跳ねたけれど、何とか素知らぬ顔をして、私は朝からすでに何度目かになる同じ説明を繰り返した。
圭さんから贈ってもらった婚約指輪を仕事に付けて行く、行かないで今朝から何度も同じやり取りを繰り返している。
圭さんは付けて行ってほしいって思ってくれているみたいだけど、私は自分が信用できないからそこは譲れなかった。
圭さんからもらった指輪は本当に大切だから。
自分の普段の行いを思い返すと、やっぱり付けて行くわけにはいかないと思う。
傷を付けたりしたら、後悔してもしきれない。
「・・・そっか。虫避けにもいいと思ったんだけど」
「え?なんて言ったの?」
譲らない私に、これも何度目かの諦めの溜息を吐いた圭さんはボソッと何かを呟いた。
聞き取れなかった私が聞き返しても、圭さんは曖昧に笑って誤魔化してしまった。
「何でもないよ。でも、おっちょこよいってなんか可愛いね。あいが言うと余計に可愛く聞こえる」
私の薬指に触れていた指先で、今度は頬を掠めるように撫でられて。
その感覚に体も心も甘く痺れる。
出勤前のこんな時間だというのに、真っ赤になって照れる私に圭さんは嬉しそうに口角を上げると、チュッと軽いリップ音を立てて、その頬にキスをした。
「帰りは一緒に帰ろうね」
満足げに笑う圭さんに、私は赤い顔のままコクコクと頷くのが精いっぱいだった。