巡り愛


周りがかなり賑やかだから、私達の話を気にする人が誰もいないということはわかっているけど、やっぱり恥ずかしくて、つい小声になってしまう。
中野さんはそれを聞き逃すまいと、私の方へ椅子の距離を近づけて、最後まで聞いていた。


「じゃあ、2人は婚約したってことなの?」


圭さんからプロポーズしてもらった時の話を終えた私に、中野さんは少しびっくりしたように訪ねてきた。
私がコクリと無言で頷くと、なぜか中野さんはパッと表情を輝かせた。


「うわぁっ!すごーい!!もうそんなところまで話が進んじゃってるんだ。桐生先生って意外と行動力あるんだねぇ」


“意外と”ってところが引っかかったけど、敢えて何も言わずに私は笑って頷いた。


「で、今は水瀬ちゃんの部屋で同棲中なんだ?キャー、いいなぁ!!」


中野さんは自分のことのように嬉しそうに手を握りしめながらはしゃいでいる。
私はその中野さんに苦笑いが浮かぶ。
でもこうやってはしゃいでくれているのを見ると、今の自分の現状がすごく幸せなものだと実感できた。




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