巡り愛
「母さん、僕もいるんだけど」
お義母さんが私の隣に立つ圭さんには顔も向けないから、圭さんは苦笑いを浮かべる。
「ああ、圭。おかえり。さあ、あいちゃん、こんなところに立ってないで上がって」
お義母さんはそんな圭さんにちらっと視線を向けてそっけなく言うと、また笑顔で私を見て中へと促してくれる。
圭さんはお義母さんのそんな態度に呆れたように溜息を吐いた。
「・・・ぷっ」
なんだかそんな2人が可笑しくて、でも微笑ましい気がして私は思わず小さく噴き出した。
「あ、やっと笑ったな」
「え?」
圭さんが私の顔を嬉しそうに覗き込んでそう言うから、私は首を傾げて彼を見つめる。
「さっきからずっと笑ってなかったからね。あいは笑ってるのが一番可愛い」
すぐ目の前にお義母さんがいるのに、圭さんはお構いなしに満面の笑顔を見せて私の頭をポンポンと軽く撫でた。
私は圭さんの甘い言葉と笑顔に一瞬、色んなものが頭から吹き飛んで真っ赤になった顔を手で隠した。
「・・・仲がいいのはいいんだけど、玄関先でやること?・・・ほら、お父さんも待ってるから上がってね」
お義母さんにクスクスと笑いながら言われて、私は自分の状況を思い出してさらにもっと顔を赤くして、顔を上げることができなかった。
そんな私の手を取って、玄関を上がる圭さんについて、私もお家の中へと足を進めた。