巡り愛
「・・・あい」
視線を外した私を穏やかなトーンのまま、静かに呼ぶ圭さんにドクンとまた一つ鼓動が大きく跳ねた。
「あい、僕を見て」
私の肩を抱き寄せて正面で向き合う形にすると、圭さんはふわりと優しく私を抱き締めてくれた。
「景色にばっかり夢中になってると寂しいんだけどな?」
抱き締めた私の耳元に冗談めかした声でそう言って、キュッと抱き締める腕に力がこもる。
トクントクンとちょっぴり速い速度で刻まれる圭さんの鼓動が触れている胸元から聞こえる。
その圭さんの心音と同調するように、私の鼓動のリズムも刻まれていく。
あぁ・・・本当にこの瞬間、私は世界中で一番幸せだと心が震えるほど思う。
そんな気持ちを伝えたくて、私も圭さんの背中に腕を回して想いを込めて抱き締め返した。
「圭さんと一緒に見る景色だからとっても綺麗だと思えるの。圭さんがいてくれて初めて、この景色も輝いて見えるんだよ」
私は圭さんの胸に顔を埋めて、いつもなら言えない恥ずかしい台詞を口にした。
「あい」
私を抱き締める圭さんの体温が少し上がった気がして。
小さく呼ばれた名前にゆっくりと顔を上げる。
触れるほど間近にあった圭さんの真剣で少しだけ切なげに歪んでいる顔に私の胸はキュッと痛みを生む。
私と目が合うと圭さんはいつもの穏やかな優しい笑顔を浮かべた。