巡り愛
「・・・婚約者?」
高梨君が一瞬、目を丸くしてびっくりしたように呟いた。
「う、うん。そうなの」
私が慌ててそれに頷くと、高梨君は怪訝そうに眉を寄せた。
「水瀬さん、指輪してないよね?」
「へ?」
唐突なその質問に私は間抜けな声を出してポカンとしてしまう。
高梨君の視線を左手に感じて私もそこへ視線を向けると、やっと言われた意味を理解した。
「あ、これはその・・・私、おっちょこちょいだからせっかく圭さんからもらった大切な指輪を傷つけたくなくて。仕事中はしてないの」
「ふーん・・・」
私の答えに高梨君はあまり納得していない顔をして、また圭さんに視線を向けた。
やっぱり睨み合うような2人に私が居た堪れない気持ちになっていると、中野さんが助け舟を出すように声を掛けてくれた。
「こんなところで水瀬ちゃんの取り合いしないで下さいよ」
クスクスと笑っている中野さんはなぜかとっても楽しそうで。
この状況でどうしてそんな風に笑っていられるのか不思議で仕方ない。
「高梨君、だっけ?水瀬ちゃんは桐生先生にぞっこんだし、桐生先生も水瀬ちゃんを溺愛してるから君が付け入る隙はないと思うよ?」
「な、中野さん!?」
何を言い出すのかと思えば、そんな恥ずかしいことをニヤリと笑いながら言う中野さんに私はびっくりして声を上げた。
でも、笑っているのは中野さんだけで、圭さんも高梨君も笑うどころかより一層厳しい顔になっている。