巡り愛


「あ、あの・・・」


どうしてこんなことになっているのか、私には全然わからなくて弱々しい声を出した私に圭さんがチラッと視線を向けた。


数秒だったけれど、何か言いたげにじっと私の目を見つめていた圭さんが「はぁ~」と溜息を吐いて、左手の腕時計を見た。


「そろそろ時間だから戻るよ。中野さん、あいのことよろしくお願いします・・・それと高梨君。次は、ないからね?」


「・・・・・それはあんたが決めることじゃないだろ」


「あいに訊いても同じ答えだよ」


こちらがヒヤヒヤするほどの冷たい2人の会話の意味が呑み込めない私は、どうしていいのかわからないまま、見たことのない圭さんの鋭い瞳を見つめていた。


私のその視線に気づいた圭さんは、もう一度私に視線を向けると、やっといつもの優しい笑顔を見せてくれた。


「じゃあ、帰りはいつも通り迎えに来るから。どこにも行かないで待ってるんだよ?」


「う、うん」


いつもと同じ優しい笑顔のはずなのに、どこか冷たいような気がするのはなぜだろう?
私はそんな違和感を覚えながらも、子供に言い聞かせるように言う圭さんにぎこちなく頷いた。


「それじゃあね」といつものように軽く手を上げて、圭さんは病院へ戻って行った。


図書館の入口から出る間際、チラッと強い視線を高梨君に向けていた圭さんのいつもと違う様子に、私の心にはモヤモヤと不安が広がっていた。



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