巡り愛
「はい、じゃあこっちもおしまいね。水瀬ちゃん、課長が今日の遅番のバイトの子のことで話があるって言ってたわよ。行ってきたら?」
「え、そうなんですか?」
中野さんが今思い出したという感じで言った言葉に私は慌てて事務室に向かおうとした。
今日は遅番で午後一に出勤してきてすぐに高梨君に捕まったから、まだ課長と顔を合わせていなかったんだ。
「あ、高梨君が探していた本はここにあるからね」
私は事務室に戻る前にさっきのメモを高梨君に手渡した。
高梨君は無言でそれを受け取ると、何か言いたそうな顔で私を見ていたけれど、その時の私は課長に呼ばれていることに気が向いていて、気付けていなかった。
「高梨君、水瀬ちゃんはダメだよ。さっきも言ったけど、あの2人の間に割って入るなんて無理だからね」
「・・・そんなこと、やってみなきゃわからない」
私のいなくなった後に、そんな会話が交わされていたことなんて、私は知る由もなかった。