巡り愛
*side圭*
病院に戻ってからも、僕はイライラが抑えられなくて、自分のデスクに向かいながらも仕事が手につかなかった。
こんなこと、今まで感じたことがない。
高梨っていうあの学生のあいに向ける視線も。
あいの髪に触ったあの手も。
僕に向けられた挑戦的な目も。
全部が僕をイラつかせている。
僕は一度手に取った書類を気分のまま叩きつけるように、デスクの上に放り投げた。
「お、桐生、珍しくイラついてんなぁ?」
部屋のドアの方から聞こえたその声に、僕はチッと舌打ちした。
この状態で矢野のお気楽な声を聞くと、余計にイライラが募る。
「舌打ちとか・・・なに、マジでらしくねぇな。なんかあった?」
「・・・・・・」
答えたくなくて黙っていると、矢野が僕の顔を覗き込むように顔を近づけてくる。
それがうっとうしくて視線を背ける僕に矢野は見透かしたようにニヤッと口角を上げた。
「あいちゃん絡みでなんかあったんだな。お前がそんなに感情を露わにするってあいちゃん以外ないもんな」
「・・・・・・」
それでもなお、黙ったままの僕に矢野は諦めるどころか、話を聞くまで出て行かないと言わんばかりにそばにあった椅子をひっぱってくると、僕の前にドカンと座り込んだ。
「で、なに?お前がそんなに機嫌が悪いって・・・あ、あいちゃん浮気?」
「は?・・・有り得ない」
不機嫌なまま顔を顰めた僕に矢野は嫌味な笑顔を浮かべる。
「でもそれに似たことでもあったんだ?」
「全然違う・・・」
矢野の言葉を否定するつもりで話し出した僕は、結局矢野の誘導尋問に引っかかったんだろうな。
そう思ったのは、全部話し終えた後だったけど。