巡り愛
「それじゃあ、お先に失礼します」
そう言って、最後まで残っていた遅番のバイトの女の子が帰って。
私は「お疲れ様、気を付けてね」と返事をしながら、手元に広げていた書類を片付け始めた。
今日も圭さんが迎えに来てくれるから、待たせてしまわないようにささっと戸締りと帰りの支度をしよう!とそう思っていると、不意に、入口のドアが開く気配がした。
圭さんが早めに迎えに来てくれたのかと思って、笑顔でそちらに顔を向けると、そこに立っていたのは思いもよらない人だった。
「高梨君、どうしたの?もう閉館時間過ぎてるけど・・・」
昼間のこともあったし、中野さんに教えてもらったせいもあって、妙に意識してしまう。
自意識過剰な気もするけど、閉館時間を過ぎて高梨君がここに来たということが不自然だから、少し身構えながら、私はぎこちなく声を掛けた。
「もう水瀬さん一人?」
高梨君は私のぎこちない様子に気付いているはずなのに、気にするわけでもなく、私の目をじっと見て、いつもの口調で訊ねた。
口調はいつも通りでも、どこか意味深で。
穏やかな表情の陰に何か普段とは違うものを感じて、私を不安にする。
「そうだけど・・・何かあった?」
不安で声も微かに震えてしまった私に高梨君は見たことのないような真面目な顔になって、一歩距離を縮めた。
「水瀬さん。・・・俺、水瀬さんのことが好きだよ」
「・・・・・・」
私の目をじっと見たまま、静かに、でもはっきりと言った高梨君に私はびっくりして思わず、固まってしまった。
中野さんから言われたと言っても、現実味はなかったその言葉を本人の口から聞くとどう答えていいのか、すぐにわからなくて。
黙ったしまった私を高梨君は見つめたままフッと口角を上げると、もう一歩私の前に近づいた。
「その顔は気付いてなかったって顔だね。かなりアピールしてたつもりだけど足りなかったかな?」
手を伸ばせば触れられてしまうその距離で、高梨君は私の顔を覗くように首を傾げた。
捕えたように視線は外さない。