巡り愛
私はその視線に居た堪れなくなって、俯くように顔を背けた。
でも伸ばされた高梨君の手が私の頬に触れて、顔を上げられる。
嫌っ!
圭さん以外の人に触れられることに、私の中に嫌悪感が湧いた。
「離してっ」
高梨君の手を振り払おうとした私の手を頬に触れていない方の手で掴まれて、私はさらに嫌悪感が増した。
「どうして?あの婚約者とかいうヤツがいるから?」
「そうだよ。私が好きなのは圭さんだけだから。高梨君の気持ちには応えられない。ごめんなさい」
余裕そうな高梨君の目をしっかり見て、私ははっきりと拒絶の言葉を口にした。
一瞬、高梨君の瞳が悲しそうに揺れた気がして、私はズキンと心が痛む。
でもここで流されるわけにはいかないと自分に言い聞かせて、高梨君の目をまっすぐ見たまま頬に触れられていた彼の手を離した。
「そんなにあの人のことが好きなんだ」
「私にとって圭さんはただ一人特別な人なの。誰も彼に代わりにはなれないの」
「・・・・・水瀬さんって見かけによらずキツイことはっきり言うんだね」
高梨君は傷ついたように顔を歪めながら、苦々しい笑みを浮かべた。
「ごめん」
私が言えるのはそれだけ。
目の前で私のことを想ってくれている人が傷ついていても、その想いに応えられはしないから。
私の答えに高梨君は自嘲気味にフッと笑うと、捕まれたままだった手を急に引き寄せられて抱き締められた。
「高梨君っ、やめ・・・」
「これっきりにするから。だから少しだけこうさせて」
高梨君は暴れる私を抱き締めたまま、切なげに呟いて抱き締める腕に力を込めた。